忘れたとは言わせない。〜エリートドクターと再会したら、溺愛が始まりました〜
「じゃあ、私は会社に戻ります」
「あ、唯香、その前に悪いんだけどちょっとした用があるんだ。少しだけ時間いいか?」
帰ろうとした私を呼び止めた傑くんに、私は腕時計に目をやる。
「あー……、昼休み終わっちゃうから十分くらいなら」
「わかった。すぐ終わるから。悪いな、ちょっと移動するぞ」
「うん。……じゃあ梨香子さん、無理なさらないで、元気な赤ちゃん楽しみにしてますね!」
「ありがとう。産まれたらすぐ連絡するわね」
「はい。じゃあ、失礼します」
梨香子さんに手を振って、また傑くんのあとを追いかけるように病室を出た。
「どこ行くの?」
「ん?医局」
「医局!?それ私が入っちゃだめなやつじゃん」
絶対関係者以外立ち入り禁止のやつじゃん。
思わず立ち止まると、
「俺が許可してんだからいいんだよ。つべこべ言わずにちょっと来い」
と不満気に顎で付いてくるように言う。
「えー、後から他のドクターとか看護師さんとかに何か言われるの嫌なんだけど」
「言いたい奴には言わせとけ。ムカついたら俺の親戚だって言っとけ。後から俺が黙らせる」
「……」
傑くんは顔が整っているため、既婚者なのにとてもよくモテる。
ただでさえ一緒に歩くだけで噂が一人歩きして面倒なことになるのに、さらにそんな立ち入り禁止のところに出入りしたとなれば問題視されてもおかしくない。
嫌だ、無駄な敵は作りたくない。
しかし私の些細な抵抗も虚しく、腕を引っ張られて連れて行かれる。
エレベーターに乗って十一階に向かうと、医局の中に通された。
「うっ……、失礼します……」
痛いくらいの視線を感じる。もう帰りたい。
誰?と近くにいた医者らしき男性が傑くんに声をかける。
それに従兄妹、と一言答えた傑くんは私を連れて奥に向かう。