忘れたとは言わせない。〜エリートドクターと再会したら、溺愛が始まりました〜
「すみませんでした。私、帰りますね」
もうすっかり目も覚めたし、さすがに人様のベッドをいつまでも借りるわけにもいかない。
何より居た堪れないし、先程のキスがだんだん恥ずかしくなってきて天音の顔を直視できない。
今はおそらく真夜中だけれど、タクシーを呼べば帰ることはできるだろう。
自分の鞄がベッドの下にあるのを見つけて、そのまま立ち上がろうとしたら
「……は?お前何言ってんの?」
と不機嫌そうな天音の声がした。
「え?」
「帰るって?マジで言ってんのかお前」
「はい。だってこれ以上迷惑かけられないし」
それに、こんなサラサラのシーツが敷かれたふかふかのベッドで寝る喜びを知ってしまったら、もう我が家のベッドでは寝られる気がしない。
そんなバカなことを考えている私とは裏腹に、天音は大きな溜め息を吐いた。
「こんな時間に帰すとか無理だから。大人しく泊まってけ」
「……え?」
「そもそも帰すつもりもねぇけどな。……ほら」
言葉と共に何かが顔にバサリとかかる。
それを取ると、これまた手触りの良いふわふわのバスタオルだった。
「大分酔いも覚めたみたいだし、シャワーでも入ってこい。話はその後だ」
有無を言わさないその言葉に、どうやら抗うという選択肢は与えられていないらしい。
どうしてこうなってしまったのか。いや、全面的に悪いのは私なのだから、言葉は悪いけど自業自得……と言えばそうなんだけど。
バスタオルを渡されてから五分後。
私は天音の家でシャワーを借り、十分ほどで上がる。
脱衣所に用意されていたのはおそらく天音の服であろう、私にはどう見ても大きすぎるTシャツ。
その下にスウェットと新品の替えの下着が置いてあった。