忘れたとは言わせない。〜エリートドクターと再会したら、溺愛が始まりました〜



「あの、ありがとうございます。お風呂も、服も。……あ、あと下着……」


「あぁ。驚かせて悪かったよ。うちに女物の下着なんて無いから、コンシェルジュに慌てて用意させたんだ。サイズはなんとなくで用意させたんだけど、大丈夫だったか?」


「こ、コンシェルジュ……!?」


「あぁ。ここのマンションのな。言えば大体のものは何でも用意してくれるんだ。ちゃんと女性に用意させたから安心しろ」



……いや、そういう問題じゃなくて……。


聞き慣れない単語が飛び出してきて、私は覚めたはずの酔いがまた回ってきそうな錯覚に陥る。


ダメだ。やっぱりこの人は私とは住む世界が違う人だ。


庶民の私の頭では処理しきれない。


考えるのをやめて、顔を上げると、天音が座るソファの向こうにライトグレーのカーテンが見えた。そのカーテンのサイズからして、窓はとても大きいのがよくわかる。おそらくその向こうは都内の夜景が一望できるのだろう。


ここが何階なのかはわからないけれど、コンシェルジュがいるようなマンションだ。きっとタワマンかそれに準ずる高級物件だろうと容易く想像できる。


改めて辺りを見渡すと、リビングにある家具も洗練された雰囲気を感じる落ち着いたシックなデザイン。きっとお高い物だ。


全体的に家具以外はあまり物が無く、まるでモデルルームのような空間だった。


そんなリビングで、天音は



「こっち、来いよ」



と私を手招きして、ふかふかのソファに腰掛けるように促す。


それに従うと、ローテーブルの上に置かれたシンプルなダークブラウンのマグカップを渡された。



「ありがとう、ございます」



そこには甘い香りがふわりと漂う、ホットミルクが。


出来立てなのがわかる、ほんのりと立ち上る湯気。手で包み込むマグカップが温かい。


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