忘れたとは言わせない。〜エリートドクターと再会したら、溺愛が始まりました〜



「……これ、天音が作ってくれたんですか?」


「あぁ。唯香には少し甘めに作ってある」



そう言った天音の手には同じホットミルクが入った色違いのダークグレーのマグカップがあり、ローテーブルの上には読みかけらしき医学書のような分厚い本が置いてあった。


天音がホットミルクを飲んでいる姿が少し意外で、手の中にあるマグカップをまじまじと見つめてしまう。



「どうした?牛乳は苦手だったか?」


「いえ、そうじゃなくって。……天音に、ホットミルクのイメージが無かったから。なんだかびっくりしちゃって」



初対面があんなんだったから、やはりお酒を飲んでいるイメージが強かった。



「俺の場合はまぁ、仕事柄、睡眠時間が限られてたり休みが全然無かったりするからさ。なるべく睡眠の質だけは良い状態で保っていたいんだよ」



まるで寝酒のようにアルコールをがぶ飲みしてしまった私にはどうにも耳が痛い話だが、天音の職業と仕事量を考えるとそれは大切なことだと私でも理解できる。



「寝不足が続くとオペ中に集中力が続かないからな」


「だから、ホットミルク?」


「そう。昔からこれ飲むと落ち着くんだよ。学生時代、試験前とかによく飲んでたからかな。なんか、今日も一日頑張ったなって。そんな気分になる」



寝付きが良くなるんだ、と言ってマグカップを口に運ぶ天音を見て、私も倣うように一口飲む。


程良い温度で私の身体を内側からそっと包み込んでくれるような、そんな優しい甘さが全身に広がって。


ごくりと喉を鳴らして飲み込んだ後に、ふぅ……。とそっと息を吐き出したくなる、そんな心温まる甘さが身体に染み渡る。



「……おいしい、です。私の好きな甘さ」



仄かに香るはちみつがとても美味しくて、なんだか全部飲みきるのがもったいないくらいだ。



「そうか。そりゃあ良かった」



嬉しそうに微笑んだ天音に同じ笑みを返す。


そのまましばらく、どちらも喋らずに静かに空間を共にして。


寄り添うように、穏やかな時間を楽しんだ。


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