忘れたとは言わせない。〜エリートドクターと再会したら、溺愛が始まりました〜
「これ、俺ん家の書斎に置いてきてくれねぇか」
「書斎?わかった。仕事終わりでいいなら」
「あぁ、頼む。悪いな」
「いいよ、ついでだし」
傑くんのデスクなのだろう、乱雑に物が置かれた一番上に置かれていた大きくて分厚い封筒を受け取って、私は逃げるように医局を出た。
これからオペが控えていると言う傑くんとは医局の前で別れ、一人でエレベーターに乗り込む。
ドアを閉めようとした時に、
「あ、ちょっと待って!」
と声がして、慌てて"開"のボタンを押した。
「はぁ……間に合った。申し訳ない。ちょっと急いでて」
走ってきたのであろう、傑くんと同じような白衣を着た姿が、エレベーターの中に飛び込んできた。
下を向いているから顔はよく見えないけれど、多分、傑くんと同年代のお医者様だろう。
「いえ、大丈夫です。何階ですか?」
「あぁ、一階お願いします」
「はい」
どうやら行き先は一緒らしい。
今度こそ"閉"のボタンを押し、ドアを閉める。
再び音も無く下がっていくエレベーターの中で、ちらりと隣の影を見上げる。
百五十センチしかない私とは頭が一つ分くらい違うのではないかというほどの高身長、清潔感のある黒髪は癖毛なのかふわふわだ。
「……ん?どうかなさいましたか?」
きょとんとした声と共にこちらを向いたその顔。
切れ長の目が鋭く見えるものの、あくびをしたのか、ほんの少し目が潤んでいるような気がした。
長い睫毛にも滲んだ涙が少し付いて、なんとも色気のある目元。
横からだとよく見える筋の通った高い鼻に、大きな口。
……かっこいい。
一言、そう思った。