忘れたとは言わせない。〜エリートドクターと再会したら、溺愛が始まりました〜



「───唯香?」


「っ!……天音」


「どうした?ボーッとして。待ちくたびれたか?」



気が付けば、目の前に怪訝な顔をした天音がいた。


レセプションからどうやってこのロビーのソファまで来たのか、よく覚えていない。


それくらい驚いていた。


……この人が。天音が。この病院の跡取り。


いずれ、院長になる人。


そう思ったら、余計に天音が知らない人のように感じて、その目をじっと見つめる。



「……どうした、唯香」



何も言わない私に何を思ったか、天音も真っ直ぐに私に視線を合わせた。



「……天音」


「ん?」


「天音の苗字は、"二階堂"なんですか?」



そう問いかけると髪の毛を掻き上げようとしていた手を止めた天音。
そして、



「……それ、どこで聞いた?」



少し、不機嫌になったような気がした。



「……そこの、レセプションで。"二階堂先生"って」


「あぁ……なるほどね。そりゃそうだよな」



レセプションを指差すと納得したように苦笑いした天音に、私はピクリと肩が少し跳ねる。


傑くんが梨香子さんに言っていた通り、やはり天音は苗字で呼ばれるのをあまり好まないのかもしれない。私が苗字を聞いてもはぐらかすし。もしかしたら知られたくなかったのかもしれない。


しかし知ってしまったし、聞いてしまった。天音は不本意かもしれないけれど。私も頭の中が散々混乱したけれど。できれば天音の口から直接聞きたかったけれど。


……それでも、知れて良かったと思う。



「びっくりした?」


「はい。まさかだったので」


「……どう思った?」



困ったような表情で、天音は私の向かいにそっと腰掛けた。



「"どう"……とは?」



私に微笑んでくれる天音に、そっと問いかける。



「……俺の見方、変わった?」



その言葉を口にした天音が、急にとても切なく見えて。


どこか行ってしまいそうな儚さを持っており、やはり困ったような表情をしていた。

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