忘れたとは言わせない。〜エリートドクターと再会したら、溺愛が始まりました〜
「確かに驚きましたけど、ようやく腑に落ちた感じがしてます。昔、"あいつは苗字で呼ばれるのが好きじゃない"って、傑くんが梨香子さんに言ってたんです。天音のことだったんだなあって。だから私が聞いた時もはぐらかしたんだなって」
「……」
「お金持ちなのはわかってたし、やっと全部繋がった気がしてます」
様々な出来事が線で繋がり、いつの間にか納得していた。
納得したら、腑に落ちた。
腑に落ちたら、すっきりした。
頷いていると、ローテーブルを挟んだ向こうから天音の手が伸びてきて。
私の手をぎゅっと握る。
「……天音?」
「ちゃんと、言おうとは思ってたんだ」
「……」
「ただ、それは今じゃないと思ってて。……唯香を口説き落としてから、ちゃんと言おうと思ってた」
「……え?」
口説き落とす……って。え?……えぇ!?
驚く私とは反対に、天音の声色は真剣そのもの。
思わず頬を染めながらも、ポツリと言葉を落としていく天音に耳を傾けた。
「自分の口から、ちゃんと言おうと思ってたんだ。でも、俺が二階堂だってバレたら、唯香が俺から離れていくんじゃないかと思ったら……なんか踏ん切りつかなくて」
いつもはもっと力強く握るのに、今日は何故だか弱々しくて。
「そしたら、言えないままズルズルして。こうやって呆気無くバレて。怖えんだよ。お前が離れていくのが。……本当、かっこ悪いな、俺」
震えているような、そんな気がした。
反対の手を、天音の手の上に添える。
ピクリとほんの少し肩を跳ねさせた天音。
下を向いていたけれど、顔を上げてその綺麗な目を見つめる。
……そんな顔、しないでよ。
苦しそうで、切ない顔なんて、しないでよ。
そんな弱気な天音を見たら。そんな新しい一面を見てしまったら。
……そんな弱いところも、また好きになってしまうじゃない。
私が力になってあげたいって、思ってしまうじゃない。