忘れたとは言わせない。〜エリートドクターと再会したら、溺愛が始まりました〜
side天音
二階堂グループと言えば今ではメディアでも有名になってきたものの、元々は創設者である俺の先祖に当たる人物が小さな町医者をしていたことが始まりだった。
そこから小さな診療所を設立し、やがて病院になり、それがいつしかこんな大きな病院と関連グループを経営するまでに成長した。
ここまでグループの規模を大きくしたのは祖父の功績が大きいものの、今後それを受け継いでいく俺や俺の父親のプレッシャーは強大なものだ。
しかし昔からそういうものだと思っていたため、自分が医者以外の職業に就くことなど考えられなかったし、当たり前のように猛勉強をして医学部に進んだ。
周りは大きな志を持って入学した学生ばかりで、俺は大学では周りから少し浮いていた。
医者になることへの明確な野望も動機も無かった俺は、医学部に入学してから、自分が情けなくて恥ずかしくて堪らなかったのだ。
そんな時に出会ったのが、唯香の従兄弟である百瀬傑だ。
あいつは俺が浮いていることなど全く気にせず話しかけてきて、図書館で医学書を読み漁っていた俺の向かいでよく似たようなものを手にしていた。
次第に会えば雑な挨拶をするようになり、会話をするようになり。
初めて飲みに行った日には永遠と自分の彼女の可愛さについて惚気られる始末。
友達付き合いなど大学ではしないだろうと思っていた俺にとって、あいつは唯一の普通の友達だった。
そんなある日、傑は大学の食堂で興奮したように俺の前に腰掛けた。
"天音。二階堂総合病院って知ってるか?VIP御用達の病院でさ。今度、脳外科の有名な先生があの病院に行くらしいんだ。あそこなら他にも業界トップクラスの医者が集まってて、常に最先端の医療をしているんだ。だから俺、いつかあの病院で医者をやるって決めたよ"
そう言ってニカっと笑った。
その笑顔に、こいつも他の奴らと同じで、目標があって志があって。野望がしっかりあるんだ。そう思うと、心のどこかで落胆した自分がいた。
初対面で"天音"としか自己紹介していなかったからだろうか。
まさか俺がその二階堂総合病院の跡取り息子だとは考えもしなかったらしい傑に生返事したのが強烈に記憶に残っている。