忘れたとは言わせない。〜エリートドクターと再会したら、溺愛が始まりました〜
日本に帰ってきてから数年。俺は既に二階堂総合病院の外科病棟で働くようになっていた。まだまだ未熟だったものの、実力主義のアメリカとは違い縦社会もある日本。その差に順応することにも時間が必要で、毎日が必死だったように思う。
二階堂という名前で一族の跡取りだということが患者にもわかるため、常に一流の腕を求められた。
二階堂という苗字が強大すぎて、過度な期待に押しつぶされそうになったこともあった。しかし、その度に心を救ってくれるのは、やはり自分が救った患者だった。
そんなある日。傑が二階堂総合病院で働き始めることを聞いた。
本当に来やがった。それが最初に思ったことだ。
その頃には既に脳外科医として確かな実力を示していた傑は、翌月から友人兼同僚になった。
最初は見知った存在が院内にいることで学生時代に戻ったような楽しさもあった。それは良かったものの、次第に傑と自分自身の技量の差を痛感し、俺はどんどん卑屈になっていった。
今思えば、分野も違うからそんなの当たり前だった。自分ができることを着々とこなすしかなかった。しかし当時は目の前の実績と経験が全てだと思っていたため圧倒的に俺が劣っていると思い込み、悔しい思いを隠しきれずに劣等感ばかりが募っていた。
───そんな時だった。
傑から長年付き合ってきた彼女と結婚するという話を聞かされ、結婚式に招待された。
順風満帆。仕事も出来て彼女と結婚。人生の勝ち組ってやつか。
どうせその内父親からどこぞの令嬢と結婚しろと言われると思っていた俺は、今までまともな恋愛などしてこなかった。
自分が仕事に邁進するばかりだったためか、仕事も恋愛も順調な傑が、酷く羨ましくて。
純粋に祝いたいのに、妬んでしまう自分が許せなかった。
とは言え世間一般から見れば、俺も羨望の対象になっているのだろうと頭では分かっているため、自嘲しつつも出席を丸で囲んで投函した招待状。
当日。ニューヨークのマンハッタンで、二人は結婚式を挙げた。
その日の夜に出会ったのが、唯香だった。
久しぶりに仕事のことを考えずに済む時間。
傑に呼び出されて、向かったラウンジで出会った唯香は、すでにもう酔っ払っていた。
綺麗にセットされた黒髪に、結婚式に出た時のままであろう、落ち着いた色のドレス姿。
パキッとしたメイクが、派手ではないものの彼女の美貌を引き立てている。
大きな目に、吸い込まれそうになった。
綺麗な女。一目見て、そう思った。