忘れたとは言わせない。〜エリートドクターと再会したら、溺愛が始まりました〜
「……ん?お前誰?」
気になってそう問いかけた時に、
「……私?傑くんの従兄妹」
と返ってきた声が、酔っているからなのか妙に甘くて。
自分から女に声をかけることなど滅多に無いからか、気恥ずかしくなってしまい唯香が飲んでいたワインを勝手にグラスごと取って飲む。
酔っているからか、怒ることもせずに目尻をふにゃりと下げている姿が可愛らしい。
そんなことを思ってしまう自分に赤面してしまいそうで、適当に悪態を吐いた。
傑と梨香子さんを部屋に運んでいる間も、真後ろにいる唯香に心臓がうるさく動いていたことには気付かないふりをする。
唯香も酔っているのに、
「梨香子さん?もうすぐお部屋着きますからね」
と優しく話しかけていて、着いた部屋でベッドに寝かす時もとても丁寧で優しかった。
ラウンジに戻って飲み直している間、部屋番号を聞いたら真向かいで驚いた。
名前も知らない女。傑の身内。
もしかしたら、今日が会うのが最後かもしれない。
そう思ったら、自然と口が動いていた。
「ここももう閉まるって言うし、……俺の部屋で飲み直さねぇ?」
断られたら、それもまた運命。なんて、俺らしくないクサい言葉が頭を掠める。
だからこそ、
「ん、わかった」
なんてことないような言葉が返ってきて、俺は拍子抜けしてしまったのだ。
「お前、意味わかって言ってる?」
自分から誘っておいてそんなことを言うのもおかしな話だが、思わず聞いてしまった。
「うん。わかってる」
しかし唯香はわかっているのかいないのか、また目尻を下げて頷いた。
その表情に、どうしようもなく胸が締め付けられて。
気が付けば、その肩を抱いて自分の部屋に戻っていた。
正直、部屋に戻ってからのワインの味をほとんど覚えていない。
唯香があまりにも旨そうに飲むから、俺も釣られるように飲んだ記憶がある。
"私、このワインすっごく好き。フルーティーで美味しい"
そう聞いて、他にも好きなワインやカクテルを聞いたことは覚えている。
そして会話が途切れた時に、唯香は俺をじっと見つめて。
何を思ったか、立ち上がって俺に抱きつくように首に腕を回してきて。
「……おい、どうした?」
バクバクとうるさい鼓動。自然と反応してしまう身体。
……あぁ、俺は今、こいつに欲情しているのか。
それに気が付いた時、目の前で唯香がそっと目を閉じて。
いつの間にか、唇が触れていた。