忘れたとは言わせない。〜エリートドクターと再会したら、溺愛が始まりました〜



「な、なんでしょうか?」



今度は手首を掴まれてしまったから、逃げようにも逃げられない。



「三年前。ニューヨーク」


「え?」



何を言っているのかわからなくて、聞き返してしまった。


それを聞いて数秒後。私の手首を掴む彼の手に、ほんの少し力が入った。



「やっぱりそうだ。思い出した。髪の色違うからまさかと思ったけど。お前、傑の従兄妹だろ?ニューヨークで会った」



ニューヨーク?


私のダークブラウンの髪の毛をさらりと触られて、ビクリと肩が跳ねる。



「忘れたとは言わせねぇぞ?傑の結婚式の日のこと」



その言葉で、私の脳裏に一気に様々な記憶が飛び込んできた。


人には誰しも、忘れたい過去があるとは言うけれど。


忘れていた、いや、忘れたつもりになっていた記憶が、そのたった一言で鮮明に思い出された。



「……ま、まさか。あの時の……?」



わなわなと震えながら、顔がどんどん赤くなっていくのが自分でもわかる。


それに対して、目の前の彼は口角を上げ、綺麗な笑顔を作り出す。


しかし、それは私にとっては"綺麗すぎて怖い"ものだった。



「ご名答。……まさか、こんなところで会うなんて」



三年前のニューヨーク。傑くんの結婚式の日のことと言えば、アレしかない。


でも、あの日の男性とは少し雰囲気が違うからか、全然気が付かなかった。



「なんでここにいんの?傑に用事?」



私の手首を掴んだままそんなことを聞いてくる目の前の彼に、私は顔が引き攣る。



「いや、私は別に……呼ばれただけで……」



なんで。どうして。


そんな言葉しか頭に浮かんでこない。


どうやら驚きの余り、語彙力がどこかにいなくなってしまったらしい。


封筒を掴んでいる手に無意識に力が入り、紙が折れる音がした。


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