忘れたとは言わせない。〜エリートドクターと再会したら、溺愛が始まりました〜
「昔から二人を知ってるから、照れくさいのね。傑がごめんなさい」
「いえ。傑くんは昔からああいう人ですから」
「だな。梨香子さんにだけだろ、あいつが甘くて優しいのは」
「そうかな?」
「そうです」
天音と二人で頷き合う。
お寿司を食べ終えた頃に二人に挨拶して百瀬家をあとにした。
天音の運転で現在の自宅であるタワマンに帰る。
ここに引っ越してきて一ヶ月が経過したものの、この豪華さには全く慣れない。
天音には気負いするなとかもっと楽にしろとか寛いでいいからとか言われるけれど、多分あと数ヶ月しないとここで寛ぐなどまず無理だ。
だって、私はこんなところに住んだことがない。同じお金持ちでも、傑くんの家は低層階。ついこの間までアパートに住んでいた身としてはこんなタワーマンションなんて夢のまた夢で、すぐに慣れろという方が難しいもの。
でもキッチンには少しずつ慣れてきて、ほぼ毎日私が自炊している。
「今日も弁当ありがとう。うまかった」
「良かった」
渡された空っぽのお弁当箱を水に浸けてから、二人並んでソファに腰掛ける。自然と天音に身を寄せると、慣れたように私の頭を自分の肩に寄せた。
「楽しかったか?」
「はい。凛花ちゃんも可愛いし、梨香子さんと久しぶりに話せて嬉しかったです」
「そっか、良かったな」
梨香子さんとは頻繁に連絡はとっているものの、やはり実際に会うと会話も弾むもの。すごく楽しかった。
梨香子さんと話したことや傑くんの反応を喋っていると、不意に沈黙が私たちを包む。
「……じゃあ、約束通り唯香からキスしてもらおうかな」
イタズラな声に私は言葉を詰まらせる。
「……私了承した記憶は無いですよ……」
「ほら、早く。それとも一緒に風呂入る?」
「えっ……」
「どっちか選んで。じゃないとどっちもにするけど」
「それはダメ!私が恥ずかしい!」
飛び起きるように天音から離れるものの、今度は体の向きを変えられて正面から抱きしめられた。
ドクドクと、お互いの鼓動の音が混ざり合う。
それを聞いて、天音も私にドキドキしてくれているのだ、と改めて思う。
こんな余裕そうな顔をしているのに。私は全く余裕が無いのに。
そう思って見上げると、
「時間切れ。俺が我慢できない」
ニヤッと笑って私にキスをする。