置き去りにされた花嫁をこの手で幸せに

夢ならばよかった

6月の花嫁になることが夢だった。

私は20代最後で結婚も決まり、順風満帆に思えていた。

朝露に濡れた新緑の季節、私は彼とバージンロードを歩き、みんなからの祝福のライスシャワー浴びながらチャペルの階段を降りてくるはずだった。


でも……
廊下を走り回る音がバタバタと聞こえてくる。
こんな素敵なチャペルなのに随分とスタッフが慌ただしな、うるさいなとさえ思っていた。

私はウエディングドレスを着てメイクもヘアスタイルも整い、あとは連絡を待つだけになり鏡の前に座っていた。

「槇村様。阿川様のご両親様がいらっしゃっています。よろしいでしょうか?」

ん?悠介の両親?

「え?えぇ。お入りいただいて大丈夫です」

悠介にまだドレス姿を見せていないのに両親が先になるなんて少し複雑。でも追い返すわけにもいかずスタッフに声をかけた。

悠介の両親に会うのはこれが3回目。
地方のためなかなか会うことはできなかったが気さくな感じの人たちだと思っていた。

「奈々美さん。申し訳ありません!!!」

鏡の前に座る私の元に駆け寄り、ご両親が礼服のまま土下座した。
カーペットに頭をつけ、2人とも土下座する姿に私は何が起こっているの変わらずかける言葉が見つからない。

呆然とし、どれだけの時間が経ったことだろう。

廊下を走る音がして、勢いよく私のドアが開かれた。

「どういうことだ!ちゃんと説明しろ」

私の父が怒鳴り込んできた。
母もすぐ後から部屋に飛び込んできて、ハンカチを握りしめ私に抱きついてきた。

「申し訳ありません。全てうちのバカ息子に非があります。本当に申し訳ありません。謝って許されることではありませんが私たちには謝ることしかできません」

悠介の両親は一度もカーペットから額を離すことなく話し続ける。

何がどうなっているの?
私に抱きつく母は嗚咽を漏らしながら泣き出してしまった。

「何がどうなっているの?」

「あいつが逃げだしたんだ。しかも相手を妊娠させたそうだ」

忌々しげに父はそう言い放った。

「え?どういうこと?」

「だから、あいつは今日来ないんだ。くそっ」

「奈々美さん、お許しください。申し訳ありませんでした」

悠介の両親は頭を下げるが当の本人はどこにいるのだろう。

「悠介は?悠介の口から聞きたい」

「申し訳ありません。本人から先程電話があって、そのあといくら掛け直しても繋がりません」

母が金切り声をあげる。

「あなた方は息子さんをどうお育てなんですか?どうしてこんなことに……。なぜ今日裏切るんですか。なぜ今日なんです。どうしてこんな酷いことができるんですか」

母の言葉を聞き、私はやっと状況が飲み込み始めた。

裏切られた……

そういうこと?

悠介が他の女を妊娠させた?

私のこといつから裏切ってたの?

そもそも私は愛されてなかったの?

私の頬を涙が伝い、泣いていることに気がついた。

「嘘。嘘でしょ?どうして?」

「奈々美さん。本当に申し訳ありません」

もう何度と言われたこの言葉。
2人だって何も知らずにここに来たのだろう。
お義父さんはタキシード、お母さんは着物を着ている。そんなふたりが私の前で土下座し続けている。
私はそんなことをして欲しいわけではない。
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