置き去りにされた花嫁をこの手で幸せに
室長へ改めて挨拶に行くと、そのままミーティングブースに連れていかれた。

「槇村、体調はどうだ?少し痩せたな」

「ご迷惑をおかけしました。式にもきていただいたのにこんなことになってしまい申し訳ありませんでした」

「そんなことはいいんだ。ただ、俺の部下が心配なだけだから。よく頑張って出てきたな。偉いぞ」

「はい……」

「無理をさせたい訳じゃないんだが、槇村ならやれるんじゃないかと思ってさ」

「ありがとうございます。頑張ります」

「よし、ちょっと待っててくれ」
 
そういうと室長は立ち上がりミーティングブースから顔を出すと周りを見渡した。

「加賀美、お前もきてくれ」

室長は声をかけると席にいた加賀美くんはこちらに歩いてきた。
ミーティングブースに3人でテーブルを囲み座ると室長が話し始めた。

「沖縄の件、2人とも了承してくれてよかったよ。この1年尽力してくれるか?加賀美とだからお互い気心も知れてるだろう。お前たちに期待しているからな。今回の件は今までうちのやってきたこととは別の新しい事業だから間違いなくやりがいはある。ただ、負担も大きいと思う。何かあればうちの部はみんな、お前たちのバックアップはしてやるから頑張ってくるんだぞ」

「「はい」」

私は室長に渡された資料を受け取り、そのまま加賀美くんと2人、ミーティングを始めた。

私が休んでいた間の新着状況や、会社としての方向性やビジョン、また加賀美くんとしての意見を聞いた。

「ファミリー向けのホテルだが、コンセプトとしては今までにないラグジュアリーさが前面にあり、久しぶりに夫婦にとっても特別感のあるファミリーホテル。かといって子どもたちが楽しめないんじゃ親も来ないだろう。子どもの思い出に残るような旅になることはもちろんだが、大人にとっても日頃の疲れをとり、優雅な気持ちになって帰ってもらいたいと考えている。
旅行疲れが出るようなホテルではなく、疲れをとりリフレッシュ出来るホテルを目指したい」

「なるほど。たしかに結婚すると子ども優先でラグジュアリーとはかけ離れていくかもしれないね。ファミリー向けのラグジュアリーかぁ。敷居が高くなりすぎず、でも特別感がある、そんなホテルになったらいいね。子どもを連れてプチ贅沢。大人も子ども癒される、だね」

「あぁ。ひとまず現地の確認をしてリノベーションに関して考えたいと思っている。槇村が出勤してきたら早急に沖縄に飛びたいと思ってたんだ」

「ごめんね、迷惑かけて。頑張るね」

「迷惑は今に始まったことじゃないよな」

そう笑う加賀美くんはいじわるそうだけど、さっきのこともあり少し見る目が変わった。
私にいつもと同じように接してくれ、みんなの目からカバーするように企画戦略室へ連れて行ってくれた。さりげない優しさなんだと思った。
口の悪さは照れ隠しなのかも、なんて思うくらいに私は加賀美くんをちょっとだけ見直した。
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