置き去りにされた花嫁をこの手で幸せに
「槇村は水曜とかから行ける?週末には戻ってくる感じにしてみないか?」
「今日、明日で資料に目を通して明後日から行けると思う。忙しい方が助かるし」
「よし、じゃあ今すぐ読み込め。で、分からないことは俺に聞け」
「はいはい、よろしくお願いします」
そういうとここで一度話は終わり、私は室長からもらったの資料を手に自席へ戻った。
パラリとめくってみると買収したホテルの写真が前面にあった。
良くも悪くも昔ながらのホテルと言わざるを得ない建物だった。それにカーペットも劣化しており前面的にリノベーションしていかなければならなさそう。
ただ、写真にある海の景色はなんとも言い難いほどに美しかった。
ずっと眺めていられるかも、と思うほどに吸い込まれるような青さだった。
コンセプトの確認や方向性など既に部で話し合った内容を読み進めていくとあっという間にお昼休みになった。
加賀美くんがお昼に行くか、と珍しく誘ってくれたがさとかとの約束があることを伝えると「良かったな」といい出かけていった。
私は早速さとかに連絡し、穴場の定食屋さんで待ち合わせをした。
いつもならエントランスで待ち合わせをするが周りからの視線が辛かったのと、万が一悠介に会ったらと考えるだけで苦しくなるからだ。
私はさっとエントランスを通り抜け、路地を入った定食屋さんに向かった。
ここ「まやの店」は家庭料理の定食屋さん。特におしゃれな料理はなくても実家に帰ったような味で知る人ぞ知るお店。私は実家だから特に珍しいものはないけれど一人暮らしの奈々美にとっては栄養バランスが取れ、リーズナブルで一人暮らしの味方だといつも言っている。けれど女の子1人で入るには少し敷居が高い。値段のこともあり男の人がとにかく多いから。けど2人なら心強いといって私たちはよく利用する。会社の人は来ないし、内緒話するにもちょうどいいから。
「まやさん、こんにちは」
私は暖簾をくぐるとまやさんに挨拶した。
店の中を見渡すがまださとかは来ていないみたい。
「あら、久しぶりね、奈々美ちゃん。さとかちゃんと待ち合わせ?まだ来てないけど」
「待ち合わせです。多分そろそろ来ると思います」
「じゃ、そっち空いてるから座って」
私は指さされたテーブル席に着き、ふと隣の席を見ると加賀美くんが座っていた。
「か、加賀美くん?」
「あれ?槇村?なんでここに?」
「さとかとここで待ち合わせなの。さとかとランチに来る時はここによく来るのよ。ビックリした。ここは穴場で会社の人に会ったことなかったのに」
「俺も。ここで会社のやつに会ったことないわ。穴場だと思って時々来てたんだよ」
私たちが話しているとお水を持ってきてくれたまやさんが声をかけてきた。
「あら、お知り合い?」
「はい。同僚なんです」
「あら、そうなの。じゃ、さとかちゃんとも同僚なのね」
「はい」
入り口の引き戸が開き、さとかが入ってくるのが見えた。
「さとか、こっち」
声をかけるとすぐにこっちに向かってきた。
「ごめーん、出遅れたね」
「大丈夫。今来たところだから」
「まやさん、こんにちは。私いつもの日替わり焼き魚定食でお願いします」
「さとかちゃんは焼き魚ね。奈々美ちゃんはどうする?」
「ごめん、まだ決めてなかった?」
「大丈夫。まやさん、私は煮魚定食でお願いします」
「はい。じゃ、少しお待ちくださいね」
さとかは急いできたのかすぐに水を飲み干した。
「はぁ、やっと落ち着いた」
さとかが椅子の背もたれに寄りかかり脱力したと思った途端、飛び起きた。
「か、加賀美くん?」
「おう。お疲れさん」
「ビックリしたー。なんでここにいるの?」
「いたら悪いのかよ。俺だってここの昼メシが好きなんだよ」
「私たちだけの穴場のはずだったのに」
「おい!いいじゃないかよ。それに俺もまだお前ら以外会ったことないぞ」
「ならいっか」
所詮私たちは同期。なんだかんだ言っても仲がいい。ましてや加賀美くんは私以外には優しいし、さとかは少しだけ嬉しそう。同期とはいえなかなか接点のない彼女にとって加賀美くんは近くて遠い存在らしい。オシャレでユーモアがあって気さくで、おまけに顔までいい。完璧な人に思えるらしい。いくら私が加賀美くんのことを愚痴っても取り合ってくれないくらい加賀美くんは鉄壁の仮面をかぶっている。今日もさっきまでとは違い言葉遣いの当たりが柔らかい。さとかは加賀美くんと話せて楽しそう。加賀美くんもまんざらではなさそうに思える。
2人の会話を黙って聞いているとマヤさんが定食のトレイを運んできた。
「「ありがとうございます」」
私は手を合わせ、小さな声で「いただきます」といいお味噌汁に口をつけた。
さとかは私に気を遣い、こちらに向き直り話しかけてきた。
「今日大丈夫だった?疲れてない?」
「エントランスは視線が辛かったけど、抜けちゃえば仕事にのめり込んでたから大丈夫だったよ」
「よかった。でも、奈々美痩せたね」
「そうかな。入院してた時に何日も食べていなかったのもあるかな。でもだいぶたべられるようにはなったんだよ」
「よかった。私、阿川くんにあったらシメておくわ」
「もういいの。もう見たくもないし声も聞きたくない。あの話ももうしたくないの」
「ごめんね。思い出させるようなこと言って。もう言わない」
「ありがとう」
「さ、食べよ。沖縄の仕事するんだよね?楽しそうだね。うちのホテル初の趣向になるらしいって聞いたよ」
「コンセプトはね。でもまだ方向性を聞いただけだから何も決まってないの。明後日から石垣島に飛ぶ予定だよ」
「いいなぁ。もう夏だもん。楽しそうだね。海にも入れるし」
私たちが沖縄の話を始めると隣の席の加賀美くんが声をかけてきた。
「なぁ、そっちの席に相席してもいい?混んできたから俺1人このテーブル使うの悪くてさ」
「いいよ」
加賀美くんはトレイを持って私の隣に移動してきた。
「まやさん、俺移動するからここのテーブル使えるよ」
「あら、ありがとうございます」
そういうとテーブルを拭き、待ってる人を案内した。
「今日、明日で資料に目を通して明後日から行けると思う。忙しい方が助かるし」
「よし、じゃあ今すぐ読み込め。で、分からないことは俺に聞け」
「はいはい、よろしくお願いします」
そういうとここで一度話は終わり、私は室長からもらったの資料を手に自席へ戻った。
パラリとめくってみると買収したホテルの写真が前面にあった。
良くも悪くも昔ながらのホテルと言わざるを得ない建物だった。それにカーペットも劣化しており前面的にリノベーションしていかなければならなさそう。
ただ、写真にある海の景色はなんとも言い難いほどに美しかった。
ずっと眺めていられるかも、と思うほどに吸い込まれるような青さだった。
コンセプトの確認や方向性など既に部で話し合った内容を読み進めていくとあっという間にお昼休みになった。
加賀美くんがお昼に行くか、と珍しく誘ってくれたがさとかとの約束があることを伝えると「良かったな」といい出かけていった。
私は早速さとかに連絡し、穴場の定食屋さんで待ち合わせをした。
いつもならエントランスで待ち合わせをするが周りからの視線が辛かったのと、万が一悠介に会ったらと考えるだけで苦しくなるからだ。
私はさっとエントランスを通り抜け、路地を入った定食屋さんに向かった。
ここ「まやの店」は家庭料理の定食屋さん。特におしゃれな料理はなくても実家に帰ったような味で知る人ぞ知るお店。私は実家だから特に珍しいものはないけれど一人暮らしの奈々美にとっては栄養バランスが取れ、リーズナブルで一人暮らしの味方だといつも言っている。けれど女の子1人で入るには少し敷居が高い。値段のこともあり男の人がとにかく多いから。けど2人なら心強いといって私たちはよく利用する。会社の人は来ないし、内緒話するにもちょうどいいから。
「まやさん、こんにちは」
私は暖簾をくぐるとまやさんに挨拶した。
店の中を見渡すがまださとかは来ていないみたい。
「あら、久しぶりね、奈々美ちゃん。さとかちゃんと待ち合わせ?まだ来てないけど」
「待ち合わせです。多分そろそろ来ると思います」
「じゃ、そっち空いてるから座って」
私は指さされたテーブル席に着き、ふと隣の席を見ると加賀美くんが座っていた。
「か、加賀美くん?」
「あれ?槇村?なんでここに?」
「さとかとここで待ち合わせなの。さとかとランチに来る時はここによく来るのよ。ビックリした。ここは穴場で会社の人に会ったことなかったのに」
「俺も。ここで会社のやつに会ったことないわ。穴場だと思って時々来てたんだよ」
私たちが話しているとお水を持ってきてくれたまやさんが声をかけてきた。
「あら、お知り合い?」
「はい。同僚なんです」
「あら、そうなの。じゃ、さとかちゃんとも同僚なのね」
「はい」
入り口の引き戸が開き、さとかが入ってくるのが見えた。
「さとか、こっち」
声をかけるとすぐにこっちに向かってきた。
「ごめーん、出遅れたね」
「大丈夫。今来たところだから」
「まやさん、こんにちは。私いつもの日替わり焼き魚定食でお願いします」
「さとかちゃんは焼き魚ね。奈々美ちゃんはどうする?」
「ごめん、まだ決めてなかった?」
「大丈夫。まやさん、私は煮魚定食でお願いします」
「はい。じゃ、少しお待ちくださいね」
さとかは急いできたのかすぐに水を飲み干した。
「はぁ、やっと落ち着いた」
さとかが椅子の背もたれに寄りかかり脱力したと思った途端、飛び起きた。
「か、加賀美くん?」
「おう。お疲れさん」
「ビックリしたー。なんでここにいるの?」
「いたら悪いのかよ。俺だってここの昼メシが好きなんだよ」
「私たちだけの穴場のはずだったのに」
「おい!いいじゃないかよ。それに俺もまだお前ら以外会ったことないぞ」
「ならいっか」
所詮私たちは同期。なんだかんだ言っても仲がいい。ましてや加賀美くんは私以外には優しいし、さとかは少しだけ嬉しそう。同期とはいえなかなか接点のない彼女にとって加賀美くんは近くて遠い存在らしい。オシャレでユーモアがあって気さくで、おまけに顔までいい。完璧な人に思えるらしい。いくら私が加賀美くんのことを愚痴っても取り合ってくれないくらい加賀美くんは鉄壁の仮面をかぶっている。今日もさっきまでとは違い言葉遣いの当たりが柔らかい。さとかは加賀美くんと話せて楽しそう。加賀美くんもまんざらではなさそうに思える。
2人の会話を黙って聞いているとマヤさんが定食のトレイを運んできた。
「「ありがとうございます」」
私は手を合わせ、小さな声で「いただきます」といいお味噌汁に口をつけた。
さとかは私に気を遣い、こちらに向き直り話しかけてきた。
「今日大丈夫だった?疲れてない?」
「エントランスは視線が辛かったけど、抜けちゃえば仕事にのめり込んでたから大丈夫だったよ」
「よかった。でも、奈々美痩せたね」
「そうかな。入院してた時に何日も食べていなかったのもあるかな。でもだいぶたべられるようにはなったんだよ」
「よかった。私、阿川くんにあったらシメておくわ」
「もういいの。もう見たくもないし声も聞きたくない。あの話ももうしたくないの」
「ごめんね。思い出させるようなこと言って。もう言わない」
「ありがとう」
「さ、食べよ。沖縄の仕事するんだよね?楽しそうだね。うちのホテル初の趣向になるらしいって聞いたよ」
「コンセプトはね。でもまだ方向性を聞いただけだから何も決まってないの。明後日から石垣島に飛ぶ予定だよ」
「いいなぁ。もう夏だもん。楽しそうだね。海にも入れるし」
私たちが沖縄の話を始めると隣の席の加賀美くんが声をかけてきた。
「なぁ、そっちの席に相席してもいい?混んできたから俺1人このテーブル使うの悪くてさ」
「いいよ」
加賀美くんはトレイを持って私の隣に移動してきた。
「まやさん、俺移動するからここのテーブル使えるよ」
「あら、ありがとうございます」
そういうとテーブルを拭き、待ってる人を案内した。