置き去りにされた花嫁をこの手で幸せに
午後も資料を読み込み、自分でもリサーチを始めた。
まだ漠然としかどんなホテルを目指すのか私の中でのビジョンが見えてこない。
家族層に受け入れられることが大前提。その上での満足度を引き上げる。価格が多少上がってもその分の満足度次第では受け入れられるだろうと思うが価格に見合わないとなれば2回目はない。場所も沖縄で飛行機に乗らないと来れないからこそ度々訪れられないから顧客も厳選して選んでくるはず。
このお金を出してでもまた来たいと思ってもらえるホテルを目指したいと思う。

私の得意とするリサーチを早速始めるとともに他社のホテルや海外のビーチリゾートを見比べたり、レビューを見たりと色々な方向からニーズを調べ上げ始めた。

そもそもパールビレッジリゾートは国内ホテル業界ではその名もしれた大手である。その上ラグジュアリーさは得意分野。有名人の会見や海外からの要人にもよくご利用いただくくらいのクオリティがある。
けれど今回は沖縄という地にあるため家族で行くことをコンセプトにするということが我が社にとってのチャレンジということ。

どんなホテルを目指すのか今からワクワクしてきた。
あっという間に就業時間を終え、加賀美くんからは今の時点で質問はあるか?と聞かれた。
ないと伝えると今日はもう帰宅するように言われた。
ぶっきらぼうだが私が今日からでまだ本調子でないため気にしてくれたのだろう。
それについのめり込んでしまい、いつまでも残ってしまうこの性格も彼にとってはよく見かける姿のため声をかけてくれたのだろう。

「うん。じゃ、今日は上がるね。また明日」

「おい、待て。俺も駅に行くから」

「う、うん」

加賀美くんも今日は仕事を終わりにするみたい。
私と一緒にパソコンを落とすとデスクを片付け駅に向かった。
エレベーターを降りると私を壁際にし、少し加賀美くんが影になるようにしてくれた気がする。だから私は周りが見えず、加賀美くんのスーツだけにしか目がいかずに済んだ。

今日も仕立てがいいスーツだなぁ。加賀美くんはちゃんとしたのを買っているのかな。しかもなんだかいい匂いがする。
こんなに近くにいたことはなく、こんなことを感じたことは今までなかった。

加賀美くんの大きな体に隠されるように歩き、彼の匂いを感じ私は何ともいえない気持ちになった。

ついこの前まで他の人と結婚しようと思っていたのに不謹慎だとは思うが、なんだか胸の奥がざわざわする。

ふと見上げると整った顔にサラサラの髪の毛、おしゃれなスーツを着こなせる加賀美くんと目があった。
改めて見ると周りが騒ぐのがよくわかる容姿だ。
ふと加賀美くんと目が合うと、

「おい、沖縄は遊びじゃないけど他社も調査に行くんだから遊びに来た雰囲気の服着てこいよ。わかってるの?お前は詰めが甘いからな」

あぁ、やっぱり話せばいつもの加賀美くんだ。うっかり絆されそうになったけど、私と加賀美くんはこんな関係だよね…と改めて実感した。

駅までいつも通り他愛のない話になりあっという間に駅に着いた。

反対方向に帰るため私たちは改札で別れた。
今日一日あっという間だった。
心地よい疲れが何ともいえず久しぶりに充実していた。
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