置き去りにされた花嫁をこの手で幸せに

動き出す

石垣島での打ち合わせは全て順調に終わり東京へもどった。

大介くんも梨花ちゃんも精力的に動き始めメキメキと頭角を表していった。

あっという間に東京ではアクティビティの最終検討になっていた。

私は別料金ではなくホテル料金の中にリフレクソロジーを取り入れたらどうかと提案した。帰ってからどっと疲れが出るので最終日の夜にリフレクソロジーを受けてから帰宅してほしいと思った。
何度か石垣島へ出張するたびに、楽しいけれど疲れたな、と思い自宅に帰ることが多かった。普通なら翌日からまた出勤しなければならないだろう。
疲れた、と思い旅行が終わるのではなく、また行きたいと思って終わる旅行にしたいと思った。
けれどマッサージされることを嫌がる人もいるだろう。そのためいくつかのプランから選択できるようにした。

私の意見は取り入れられたがホテルの収容人数からするととてつもない人数になるのでどうしたらいいのか検討することになった。親がリフレクソロジーを受けている間の託児も検討課題だった。

日々進む計画に振り回されあっという間に12月。ホテル業界の繁忙期を迎えた。
クリスマスや年末年始はとても混み合うが私の場所は影響をさほど受けはことはなかった。
ただ、他社のクリスマスの催しなどチェックしてさらに上回るものに改良出来るものはないかと休みを返上しリサーチに回っていた。

ゲストが写真をネットに投稿して、広まることが最近はとても多い。そのためいかに写真映えするものがあるか、がどのホテルも検討課題のようだ。時代の波に乗り遅れることなく、さらに新しいものを見つけるのは容易ではない。ふとした時に目にしたものをメモし続ける私は自分でおかしくなった。
石垣島のホテルが終わったら辞めるつもりなのに、私ったらなにしてるんだろう。

ふと見ると周りにはカップルがたくさんいた。みんな楽しそうに写真を撮っている。
横を見ても手を繋いでいるカップルや子供を挟み3人で歩く幸せそうな家族の姿があった。
私にはもう関係ない。
でもゲストが幸せになれるものを作りたかった。
それもあと少しでおしまいか……。
本当は新作ケーキを見てから帰りたかったけれどいくら仕事とはいえ1人でクリスマス用のケーキを食べるのは辛い。
テイクアウトできるか聞いてみよう。
そう思いカフェに向かって歩いていった。

店員さんに声をかけようとすると後ろから2人なんですけど席ありますか?という声が聞こえてきた。
「はい。あちらの席でよろしいですか?」
と手を差し出された。
私は後ろの人に場所を譲ろうと少し横に避けたら腰を抱かれたままその先へと歩き出していた。
驚いて振り返ると大介くんがいた。

「驚きました?」
 
私が頷くと大介くんは破顔し、一緒にテーブル席に着いた。

「1人で食べるつもりでした?」

「ううん。気まずいからテイクアウトで試食するつもりだったよ。大介くんはどうしたの?」

「槇村さんがリサーチに行くって聞いていたから俺も同行しにきました。1人だといかにもリサーチじゃないですか。だから俺が彼氏役という想定で来てみました」

「大介くんはできる男だね。助かったよ。こんな中でおひとりさまは辛かったからさ。去年までは付き合ってもらってたんだけど…、なんていらない情報だったね」

「俺、槇村さんのこと好きだからいつでも駆けつけますよ」

「大介くんはいい男だね。そんなこと言えるなんてお姉さん感動しちゃう」

私は笑って言い返すと、大介くんは真面目な顔で「本気ですよ」と言われ驚いてしまった。

「槇村さんはもう恋愛も結婚もしないって言ってたけど未来は誰にも分からないです。だから俺のことも考えてみてください。俺は槇村さん
を決して裏切らない。まだ頼りないかもしれないけど、槇村さんに認めてもらえるよう頑張りますから今すぐには振らないでくださいね。今は後輩から同僚や友人にくらいまで昇格させて
ください」

私を決して裏切らない、その言葉は私にとって絶大な力があった。
そう、裏切られることが怖い。
信じてしまったらまた裏切られるのが怖い。
裏切られているのかも、と疑い深くなりたくない。

私はなにも言えずにいるとメニューを取り出してきてケーキを2つ選んでくれた。特別なメニューの2つなので私1人ならどちらかにしようと考えていたものだった。

「飲み物はどうします?」

「コーヒーで」

大介くんは頷くとオーダーを済ませてくれた。
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