置き去りにされた花嫁をこの手で幸せに
ホテルの中にある日帰り温泉を利用しようと受付をした。

男女に分かれ温泉に向かい、広間で待ち合わせにした。

梨花ちゃんと温泉に浸かりガールズトークが始まった。

「槇村さん、今日は加賀美さんとすごく仲がいいですね。助手席にエスコートするなんてどこの王子様かと思いましたよ。あのさりげなさはやり慣れてますね」

「エスコートなんてそんな大そうなものではないよ。ただ、車高が高いから荷物を持ってくれただけだよ」

「私からみたらエスコートでしたよ。だから山口くんはヤキモキしてましたね」

「大介くん?いつもと変わらないよね」

「いえ。ヤキモチ妬いてましたよ。顔に出てましたもん。顔は笑ってても目は笑ってなかったって感じです」

「そうかな」

「槇村さんはどうするんですか?どっちがいいんですか?」

「どっちが、とかはないよ」

「槇村さんは素直じゃない。惹かれる方にいってもいいんじゃないですか。加賀美さんも大介くんも本気ですよ」

わからないよ、どうしたらいいのかなんて。
大介くんには好きだから、っていわれたから好意があることは知っているけど加賀美くんからは何も言われてないもの。梨花ちゃんの勘違いなんじゃないのかな。でも加賀美くんに優しくされるたび胸の奥が疼く。
それをなんて言ったらいいのかわからない。
でもその胸の疼きを自分に問いかける勇気が持てない。

「槇村さん、素直になりましょうね。私はどちらになっても、他の人になっても応援しますからね」

「前を向くのが怖いの。だから飛び込めない。絶対、はないんだってわかったから。正直なところ大介くんの言ってくれた言葉が私の根底を支えてるのは間違いない。その言葉で私は少し動き出せたの。それに大介くんは魅力的だと思う。でも付き合うことにまで踏み込んではまだ考えられない」

「山口くん、頑張ってるんですね。揺さぶられてますね」

「そっか……そうなのかもしれないね」

「揺れ動いたらいいですよ。前向きに考えられるようになれたらいいですね」

私たちはお風呂から上がると大広間へ向かった。
加賀美くんも大介くんもすでに上がっていてビールを飲んでいた。

「加賀美くん、飲んじゃったの?」

「いや、ノンアルコール。雰囲気だけ。お前らも飲む?」

「竹内も槇村さんも整体とかどうです?向こうに漢方整体って書いてありましたよ。珍しいなぁって思って」

大介くんがかぶるように話しかけてきた。

「何それ。やってみたい!槇村さん行ってみましょうよ」

「え、あ、うん。いいのかな、行ってきても」

「もちろんですよ。俺らのんびりしてるんで、女子はゆっくり癒やされてきたらいいですよ」

「じゃ、ちょっと行ってくるね」

「ちょっとと言わずまだ時間も早いしゆっくりしてきてください」

「ありがとう」

私は梨花ちゃんに手を引かれ広間を離れた。
漢方整体だなんて聞いたこともない。
私たちの好奇心が刺激され梨花ちゃんと整体を受けに行った。
凝り固まった肩甲骨や足のリンパドレナージをしてもらいとろける様な経験だった。

大満足で私たちが広間へ戻ると加賀美くんも大介くんも見つからなかった。

私と梨花ちゃんは飲み物を買って広間で待っていると少しして2人が戻ってきた。

「どうだったか?」

「すごく気持ちよかった。全身とろけるようだったよ」

「よかったな。俺らもリフレクソロジーとかいうのをやってきたんだ。槇村が前に提案してただろ。どんなものなのかと思って山口と体験してきた」

「え?で、どうだった??」

「足だけなのにこのほぐされようは凄いな。初めの5分くらいしか記憶がない。あまりの気持ち良さに寝落ちした」

「加賀美さんよだれ出てましたよ」

「アホか。出すわけないだろ。お前こそ変な顔で寝てたぞ」

「まさか」

2人の仲の良さそうな様子を見てちょっと安心した。
私がクスクス笑うとみんなの視線が私に向いた。

「どっちもイケメンだからどんな顔してても問題ないんじゃない?ね、梨花ちゃん」

「そうですね。加賀美さんは間違いなくよだれ垂らして寝てても完璧だと思います。でも山口くんは……あーあって感じだと思いますよ」

「「おい!」」

2人同時に声が上がり笑ってしまった。
どちらにとってもあまり良くない評価に私は苦笑いした。

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