置き去りにされた花嫁をこの手で幸せに
石垣島へ細部に渡る確認と広告写真を撮るために私と加賀美くんは向かった。

仕事のはずだけど加賀美くんの隣にいるだけでドキドキしてしまう。
この8年ずっとこうして隣に居たはずなのに、と考えるだけで顔が赤くなる。

「奈々美、どうした?」

車を運転しながら加賀美くんは赤信号で止まると声をかけてきた。

「なんでもない」

「なんだよ。顔が七変化してたぞ」

私は手で顔を隠した。
するとその手にチュッとキスが落とされびっくりして顔を上げた。
ちょうど信号が青になり進み始めるところだった。
加賀美くんは鼻歌を歌い、いつもより楽しそうに見えた。

「加賀美くん!仕事だよ。もう」

「誰も居ない時くらい名前で呼んでよ、奈々美ちゃん」

「もう!仕事しなさい。は、隼人」

「奈々美に名前で呼ばれる日が来るなんてな。幸せだな」

そんなこと言われるとますます顔の火照りを感じる。

「照れてる姿もかわいいな」

「見ないでよ!」

「運転してるから見えないよ。でもそんな空気が愛おしい」

「隼人の言葉が甘過ぎてどうしたらいいのか困ってるの!」

「忘れるな。奈々美限定だから」

甘い空気のままホテルの駐車場へ入ると外の石垣についていた看板は変わり、当社の金のプレートがついていた。外からでも一気にグレードが上がったことがわかった。
外壁も塗り直され真っ白になり見違えるようだった。
ホテルへ足を踏み入れるとエントランスが広くなり、大きな窓の奥にホテルのガーデンと白い砂浜、海がみえる。

「うわぁー。凄い開放感。天井も抜いた分頭上も広がって気持ちいいね」

「そうだな。手を広げたくなるような開放感だな」

外でバーカウンターのようなものを作れたら、と話していたが、ここで朝食のオムレツを焼きそのまま外で食べられるように工夫した東屋がもう一軒建っていた。想像通りの出来に顔が綻ぶ。

インテリアコーディネートとカメラマンが到着すると小物のセッティングを行い、撮影が始まった。
部屋も壁紙やカーテンが一新し、真新しい雰囲気になっていた。
最初に来た時のカビ臭さは無くなっていた。

撮影のために何部屋か既に家具も運び込まれており、完成した部屋はまた格別だった。
感極まる想いにスマホで写真を撮り、会社のみんなに送信した。

日差しのあるうちにガーデンの撮影が始まり、時間をあけてまた夕焼け、夜空の時間帯での撮影と何パターンも撮る予定。
合間にロビー、エントランスの撮影も行った。

明日は部屋の撮影やリラクゼーションルーム、アクティビティルームなど内部の撮影が中心となる予定。

今日一日とても楽しくて、楽しすぎて、あっという間だった。
加賀美くんやカメラマン、コーディネーターさんと共に現地のお店に食事へ向かった。とても素敵な写真になるだろう興奮からそれぞれの思いがつのり、テンションが上がってお酒が進んでしまった。

車をホテルに置いたまま食事に出たのでそれぞれの滞在先へはタクシーで帰ることになった。
また明日、お互いに声を掛け合い笑い合って分かれた。
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