嘘は溺愛のはじまり
お母様とのお話はとても楽しくて、時間が過ぎるのがあっという間だった。
伊吹さんの小さな頃のお話も、少し聞かせてくれて。
私の小さな頃の話は、かなり控えめにお話しして。
一番楽しかったのは、お母様の趣味のお話。
最近になって急に絵を描きたくなったとかで、基本的なことだけを絵の先生に教えて貰い、それ以降は全て自由に描いているのだそうだ。
私は、絵なんて中学校の授業で描いて以来一度も描いていない。
小学生が使うような水彩絵の具でしか、色を塗ったことがない。
アクリル画とか、油絵とか、私には完全に未知の世界で、とても興味深かった。
「結麻さんも、興味があるなら、描いてみれば?」
「でも私、絵心ないですし……」
「絵心なんか必要ないのよ。好きな色で埋め尽くすだけでも十分よ?」
「……それは、ちょっと、やってみたいかも知れません」
絵を描くなら、そこにあるものをちゃんと写し取らなければいけないと思っていた。
でも、お母様の言うように、ただ好きな色を使って、好きなように塗りつぶしても良いのなら、それはそれで楽しそうだ。
そして、それなら、絵心のない私でも出来そうだと思った。