嘘は溺愛のはじまり
――そんな話をしているうちに、あっという間に夕方になってしまった。
楽しい時間ほど早く過ぎると言うけれど、本当にその通りだ。
お母様が帰ってしまわれたら、伊吹さんが帰るまでほぼ丸一日、またひとり。
……そんな思いが顔に出ていたのだろうか。
「……伊吹がいなくて、寂しい?」
ストレートに尋ねられて思わず顔を赤くしてしまい、「ふふふ、図星ね?」と言われ、思わず口ごもって俯いた。
「まぁ、気持ちは分かるわね。私も今日は帰ればひとりだもの」
「……あの、じゃあ、もしお母様さえ良ければ、泊まっていかれませんか……?」
ここにはゲストルームがある。
服の替えなど必要なものがあれば私が買いに出ればいい。
――と、そんな経緯で、お母様には泊まって頂くことになった。
まだもう少しお母様のお話を聞けると思うと、嬉しくなる。
一緒に夕飯の支度をするのも楽しくて、ああ、私の母親がこんな人だったら、私はもっとまともな人間だったのかな、なんて思ってしまう。
およそ、“まとも”からほど遠い自分を思えば、ますます伊吹さんとは釣り合わないと思い知らされる。
――身の程知らず。
だけど、なにひとつまともじゃない私は……いや、まともじゃないからこそ、身の程もわきまえずにここに居座っている。
湯船にお湯を張りながら、そんな風に考えていた……。