嘘は溺愛のはじまり
どうするか激しく悩んでいる私の後ろから、伊吹さんの規則正しい寝息が聞こえる。
こんな……、こんなしあわせなことって、ある……?
好きな人に抱き締められて目が覚めるなんてこと……。
はぁ、と小さく息を吐き出す。
胸がいっぱいだ。
ぎゅっと目を瞑って、伊吹さんの体温を背中全体で感じる。
身動きできない不自由さをしあわせだと感じるなんて、と、私は思わず小さく笑った。
「なにか、楽しい夢でもみた?」
不意に真上……いや、真後ろ? から囁かれて、私の心臓がドキリと跳ねた。
「えっ、あのっ……」
「……あったかい」
「あ、あの、ごめんなさい、私、越境して、」
「うん……俺もごめん、結麻さんの体温が心地よくて、抱き締めてしまった」
「……っ」
ごめんなさい、お手上げです。
いろいろ経験値のない私は、どうしたら良いのかさっぱり分からなくて、固まったままドキドキと煩い心拍を痛いぐらいに感じるだけだ。
「起きるにはまだ早いよから、もう少し寝よう?」
いつもよりずっと近くで聞こえる伊吹さんの低い声。
寝起きだからか、少し掠れてる。
……それがまた一層セクシーで、胸がキュンとなる。