嘘は溺愛のはじまり
「あ、の、私、自分のところに、」
「暖かくて気持ち良い……。もう少しこのまま寝たい。……だめ?」
「え、っと、あの……」
「……ん、おやすみ……」
私の返事を聞くことなく、伊吹さんは再び微睡み始めたようだ。
今回の出張のスケジュールはかなりタイトだと専務秘書の笹原さんから聞いていた。
一日にいくつもの交渉や会食をこなす。
ひとつの不注意で全てが台無しになる可能性だってある世界だ、順調に進んだとしても、体力も神経もかなりすり減らしただろう。
「――出張、お疲れ様でした」
私を抱き締める腕にそっと手を添えて、起こしてしまわないように口の中で小さく呟く。
そして、私も再び、ゆっくりと眠りに落ちた――。