嘘は溺愛のはじまり

「若月ちゃんが秘書課に来てくれてからはさぁ、ほぼほぼ定時に上がれてたじゃーん? それなりに仕事帰りにもデート出来てたのよー。だから、もう大丈夫だと思ってたのにぃー」


野村さんの話によると、デートのたびになんだか様子のおかしい彼を問い詰めると、全然会えない時期に会社の後輩とそう言うことになってしまった、と言うことらしい……。


野村さんは「……まぁ、よくある話だよねー」と言って、ビールをグイッと飲み干した。


いくら会えない時間が長かったとは言え、こんなに素敵で仕事も出来る野村さんを振るなんて、私には本当に信じられなくて、どう言葉を返して良いかも分からなかった。


「ごめんねー若月ちゃん、突然食事に誘って。彼氏、怒ってない??」

「あ、いえ、大丈夫です、ちゃんと連絡しておいたので……」

「……ふぅん。やっぱり、彼氏、いるんだ!」

「ええ?」

「ふっふっふ。そうだと思ったんだよねー、若月ちゃん、こんなに可愛いんだもん、いないわけが、」

「野村さんっ!?」

「いや、私の失恋話もアレなんだけどさー、やっぱ、若月ちゃんの彼氏の話も、聞きたいじゃんー?」


そう言って不敵に微笑んだ野村さんは、とても美しかった……。

こんな美人を振るだなんて、最低。

とか、そんな事を考えている場合ではなさそうだった。

まさかこんな風に揚げ足を取られるとは思いもしなくて、あまりにも分かりやすく狼狽えてしまう私……。

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