嘘は溺愛のはじまり
「あ、あの、彼氏なんかじゃなくてですね……」
しかしジョッキ3杯目の野村さんは、さすがに酔い始めており……。
「若月ちゃんっ! この亜矢さんの目は、誤魔化せないんだからねーっ!?」
「いえ、あの、誤魔化しているわけでは、」
「さぁ白状しなさい! 彼は、どんな人ー???」
「……ええっと、」
「ほらほら、さぁさぁ……!!」
「の、野村さん~~~っ」
酔った野村さんの気迫に気圧された私は、結局、男の人と同居している事を白状させられてしまった。
もちろん、その同居相手が専務の篠宮伊吹さんだと言うことは、絶対に口を割らなかったけど……。
「そっかぁー、同棲してるんだぁー。いいねー、羨ましいなー!」
「いえ、あの、だから、同棲じゃなくて、同居ですっ」
「同じ、同じー!!」
野村さんのことを慰められればと思ってこの場にいるはずなのに、なぜか私の話になってしまい、結局野村さんを慰めることが出来たのかどうか分からないままこの場はお開きとなってしまった……。
自分の、全ての能力の低さに心の底からがっかりしながら帰宅する。
「ただいま……」
パンプスを脱ぎ小さくそう呟くと、リビングのドアが開いた。