嘘は溺愛のはじまり
さて、今日はこの後どうしようか。

マンションに帰ってもひとりで寂しいし、夕飯の支度もする必要は無いし……。

……そうだ、どこかでお茶でもして帰ろう。

そう考えて、私はすぐ近くにあった少しおしゃれなお店に入ることにした。

隅の方の、なんとなく居心地の良さそうな席に腰を下ろし、注文したコーヒーを飲みながらスマホで不動産情報を検索する。


会社からどれぐらい離れれば、私の住めるような物件があるだろうか。

だけど残念ながら、東京はどこだってそれなりに家賃が高い。

うーん。

家賃と駅からの距離なんかで絞り込んで、出て来た結果とにらめっこをする。


……はぁ。


いまいちピンとこない検索結果に、私は脱力した。

あまりにも今の住まいが快適すぎて、贅沢になってしまっている気がする。


じっと眺めていたスマホから顔を上げると、窓際の席に一組の男女が座っているのが見えた。

ふたりは、雑誌か何かを目の前に広げている。

女性が熱心に指をさしながら、しきりに男性に何かを話しかけていた。

……とても仲が良さそうなカップルで、うらやましい。


――こちらからは逆光になるから、すぐには気付かなかったのだ。

その男女が、伊吹さんと、花屋の女性だと言うことに……。

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