嘘は溺愛のはじまり

「……っ」


思わず私は目を逸らす。

けれども、二人がそこに存在することに変わりはない。

時折楽しそうな女性の声が漏れ聞こえてきて、耳を覆いたくなった。


「……ねぇ、伊吹も…………よぉ」

「俺が………でも………?」


話の内容までは、分からない。

だけど……親密そうに肩を寄せ合って眺めているそれは――ウエディングドレスのカタログだった……。


「……、……伊吹の……良い……。だから、伊吹に選んで……。いいでしょ? お願い」

「…………なら、これが良い」

「……ねぇ、…………」


一部分しか聞こえてこない会話。

どうしたって、聞こえなかった部分を補いたくなる私のバカな頭を、誰かどうにかして欲しい……。


ねえ、誰がどう聞いても、女性が男性に『一緒にウエディングドレスを選んで欲しい』と言っているようにしか聞こえないと思わない……?


ああ……、

やっぱりふたりは、もうすぐ結婚をするんだ――。


分かってはいたけど……。

それでもやっぱり、とても……とてもショックだった。


衝撃的な事実を知ってしまい、思わず私は俯いて、ギュッと唇を噛む。

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