嘘は溺愛のはじまり
それからほんの数日後のこと――。
その日の午後も、私は野村さんの隣で仕事に精を出していた。
仕事をしている時は一時的に色んな事を忘れられるから、それなりに忙しいことがとてもありがたかった。
不意に私のデスクの電話が鳴り、私はワンコールで受話器をとる。
かけてきた相手は、総務課の片瀬さんだった。
『記念誌の原稿を書いてるんだけど、過去の資料が欲しいの。書庫にあると思うから、探してきて欲しいんだけど』
「分かりました。どんな資料でしょうか」
必要な資料の内容を聞き取ってメモをし、電話を切った。
「なにー? 資料って?」
「あの、総務課の片瀬さんが、書庫で資料を探してきて欲しいとのことで……」
「片瀬かぁ。なんであの子、自分で行かないかなぁ。大丈夫? 分かる?」
「はい。分からなければ、内線で教えて貰っても良いですか?」
「もちろんいいよー。はい、これ鍵ねー」
「ありがとうございます。ちょっと行って来ます」
「はいはい、行ってらっしゃいー」
書き取ったメモと野村さんから受け取った鍵を持って、私は階下の書庫へと向かった。