嘘は溺愛のはじまり

――書庫の鍵を開け、電気をつける。

片瀬さんの必要としている資料は少し古いもので、先日野村さんに案内して貰った時の感じでは、多分部屋の真ん中辺りにありそうだと予想して、その棚のあたりへと向かう。


すると……

後方で、カチャン、と音がした。

それと同時に、書庫の照明が一部消える。


「……えっ?」


停電かと思ったけど、一部しか消えていないから、停電なんかではない。

ポツン、ポツン、と飛び飛びに灯る明かりが、逆に不気味だった。


……な、なに……???


何となく背後に気配がして、私は恐る恐る、ゆっくりと、振り返ると……。


「……っ!?」


そこには、総務部の谷川部長が立っていた。


「た、谷川、部長……、」

「資料探しだろう? 僕が手伝ってあげよう」

「いえ、あの、」

「遠慮しなくていい。ほら、メモを見せてごらん?」


私が手にしているメモへと、谷川部長の手が伸びる。

私は思わず咄嗟に、手を引っ込めた。

すると、谷川部長の表情が、さっきまでのニヤニヤした顔から、一気に険しい表情へと変わる。


「僕が親切にしてあげてるんだから、部下のきみは僕に従えば良いんだっ」


そう声を荒げ、再びメモへと手を伸ばした。

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