嘘は溺愛のはじまり




「……みぃつけた」





後ろばかり気にしていたから、すぐ横から出てくるなんて、予想もしていなかった――。


ヒッ、と、声でも呼吸でもない音が、自分の喉のあたりで鳴る。

手が、足が、ガタガタと震え、その場から動けなくなった。


ペタリと尻餅をついてしまい、その姿勢のまま、それでもなんとか逃げようと、後ろへ下がる。

でも、そんなのは無駄な抵抗で。

私の正面でニヤニヤと気味の悪い笑みを浮かべている谷川部長は、じりじりと後ずさる私の方へ、一歩、また一歩と近づき……。



「……っっっ!!!」



私の上に跨がり、私の上体を床へと押し倒した。


固い床へと打ち付けられて、頭がクラクラし、目の前が一瞬霞む。

ようやく戻ってきた私の視界いっぱいに見えるのは、谷川部長の不気味な笑顔で……。


「……っ」


生暖かい息が顔にかかり、あまりの気持ち悪さに思わず顔を顰めた。

恐怖と嫌悪で身体全体が震え、押しのけようとしても、全然力が入らない。

そんな私を、私の上に跨がった状態で嬉しそうに見下ろし、「そんなに縋り付いて。僕が好きなんだろう? 分かってるよ、今、抱いてあげるからね、クククッ」と下卑た笑いを漏らした。


私は必死に頭を左右に振り、言われた言葉を否定する。

恐ろしくて、声はどうやっても出なかった。

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