嘘は溺愛のはじまり

馬乗りに跨がったままの谷川部長が、再び私に顔を近づける。

何をされるかもう分かりきっていたから、私は出来る限り顔を横に背けた。

だけどそんなことはただの無駄な抵抗。

強い力で顎を掴んだ手によって正面へと戻され、再び唇を奪われた。

生暖かい舌で舐め回されて、もう死んでしまいたい気分になる。


――ああそうだ、ここで、自分の舌をかみ切ってやればいいんだ……。

“あのとき”だって、私は真剣に、そう思ったんだ――。


だけど、執拗に絡みつく谷川部長の舌が、それを許さない。


私、ここで、この人に犯されるのか……


そう諦めかけた瞬間だった。


「……うわぁっ!?」


谷川部長の短い悲鳴が聞こえ、突然私の上から消え去った。

何が起こったのか分からずあたりを見回すと、谷川部長は床にたたきつけられていて……。


「若月っ、大丈夫か!?」

「……っ」


身体を強く床に打ち付けてのたうち回る谷川部長を冷たく見下ろしていたのは、奥瀬くんだった。

そしてすぐにバタバタと誰かの足音がして……。

起き上がろうとする私を優しく抱き起こしてくれたのは、伊吹さんだった。

伊吹さんに、ギュッと抱き締められる。

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