嘘は溺愛のはじまり
私は何度も「違う、私はそんなことしてない!!」と言ったけど母は聞く耳を持たず、私の髪を掴んでソファから引きずり下ろした。
母は「なんて子なの!?」と言って私を何度も叩き、「私のものを盗るなんて! 泥棒猫!!」と錯乱したように叫ぶ。
「ちがう、私は、そんなこと、してない!!」
母に叩かれながら、何度もそう叫んだ気がする。
それももう、よく分からない。
叩かれすぎて、顔中と言わず身体中が腫れて赤くなり、掴まれて振り回された髪は何本も、何十本も抜けて床に散らばり、着ていた服はヨレヨレに伸びきっていた。
そこへ、更なる不幸が重なる――。
父が、大切な書類を家に忘れたとかで、帰宅したのだ。
リビングで起きている惨状を目にして、「……なんだ、これは……?」と呟く声を、私は床に転がったまま聞いた気がする。
般若のような形相で私を叩く母、今にも立ち去ろうとする母の知人の古田、床に転がり母に叩かれ続け朦朧とする私、それを見て茫然と立ちつくす父……。
地獄絵巻きとは、まさにこの状況のことなのかも知れない――。
その後、父にことの経緯を問い詰められた母が、古田という男性と不倫関係にあることを渋々認めた。