嘘は溺愛のはじまり

母は、その日は出社後に急に微熱が出て体調が悪くなり、早退して来たらしい。

体調不良で早退したのは本当にたまたまで、古田とは何も約束をしていなかったのだと言う。

古田が私を襲うために訪ねてきたところに、偶然母が早退して帰ってきて、またしても偶然に父が忘れ物を取りに帰ってきた――。

全てが、偶然の産物だった。


そんな皮肉な偶然は、私たち家族をバラバラにするのには十分だった。


母の不倫が分かり、すぐに両親は離婚することになった。

母は父と別れる間際まで、私のことを「泥棒猫」と罵ったし、父は私を引き取ったけれど、どこか私のことを疎ましく思っているような様子で、私に話しかけることはほとんどなかった。


父とふたりで暮らすようになって一ヶ月も経たないうちに父が恋人を連れて来て、一緒に住むようになった。


「この人と再婚を考えているんだ」


父の言葉に、私は言葉を失う。

そりゃあ、母は結構最低なことをしたけど、だからって離婚してすぐ他のひとと再婚なんて……。

そう思いはしたけど、口に出すことはなかった。

父に疎まれ始めていたけど、このときはまだ自分の居場所をなくすわけにはいかなかったから……。

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