嘘は溺愛のはじまり
――ズキリ、と頭が痛んで、思わず顔を顰めた。
「結麻さんっ!?」
私を呼ぶ声が、聞こえる……。
この声は、なぜだかとても、安心できる声……。
誰の、声……?
「結麻さん、結麻さんっ……」
どうしてそんなに私の名を呼ぶの……?
そんなに大切そうに、……どうして?
「結麻さん、結麻さんっ」
どこか少し焦ったような、でも、とても優しい声。
……あぁ、そうだ、私の、一番好きな人の声……。
もう一度ズキリと痛む頭を押さえようと手を動かすと、頭に辿り着く前に私の手が暖かいものにすっぽりと包み込まれた。
「……っ」
重い瞼を少しずつ上げると、眩しい光が目に飛び込んでくる。
知らない天井が私を見下ろしていた。
眩しさでぼやける視界に、黒い影が映り込む。
それが人の影だと認識するのに随分と時間がかかってしまった。
「結麻さんっ」
私の上の黒い影が、私の名前を呼ぶ。
知っている。
この声は、あの人……、伊吹さんの、声だ……。
「いぶき、さん……」
すっかり掠れていて、彼に聞こえたかどうかは分からない。
逆光で、伊吹さんの表情も、よく分からなかった。
「あぁ、結麻さん、良かった、気がついて……っ」
さっき頭を押さえようとして動かした私の手は、どうやら伊吹さんの両手にすっぽりと包み込まれてしまったようだ。
……あぁ、どうりで暖かいはずだ。