嘘は溺愛のはじまり

「あ、の、私……」

「どこか痛む?」

「あ……、頭が、少し……。でも、大丈夫、です。それより、ここは……?」

「病院です。結麻さんは書庫で、気を失って……」


ああ、そうだった……。

私は、また、“そう言うこと”をしてしまったのだ……。

知らず知らずのうちに、谷川部長を誘ってしまったのだろう……。


何度『自分はやっていない』と言っても、誰にも聞き入れてもらえなかった過去、そして恐らく、さっきも同じ――。


あの日、私がどれだけ泣いて訴えても、ダメだった。

もう同じ事はしないと、心に誓ったのに。

自分の中から勝手ににじみ出てしまうものは、変えられないのか……。


そして、ハッと我に返る。

もしかして、私は伊吹さんにも、同じ事をしているのではないだろうか、と……。


伊吹さんが私に仕事を紹介して、住む場所まで提供してくれて、同じベッドで眠るのは……、私が、“誘って”いるせい……?


恐ろしいことに気付いてしまい、一気に血の気が引く。


そんな……。

私、そんなつもりじゃ……、そんなつもりじゃない……。

ただ、私は、ただ伊吹さんのことが好きなだけだ……。

でも、本当に……、本当に自分から誘ってないって、言い切れる……?

古田も、谷川部長も、どちらにもそんなつもりはなかったのに、『誘ったんだ』と言われて……。

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