嘘は溺愛のはじまり
――今まで全く縁のなかったその場所の前で私は、中へと足を踏み入れるのを躊躇していた。
一度は“ここ”へお世話になる可能性も考えたけれど……。
「……う、う~ん……」
何人かの人が、ウロウロする私を怪しげにチラ見した後、その中へと入って行く。
よく利用する人たちなのだろうか、慣れた足取りだ。
ここへ来てもう20分はこうしているのだけど、まだ決心がつかない。
――インターネットカフェ。
ここで寝泊まりする人もいると聞いたことがある。
かく言う私も、職も家もなくしてしまうと分かった時は一時的にお世話になると言う可能性を考えた場所だ。
とりあえず次の住む場所が決まるまで滞在するには、情報収集も出来るし、ホテルなんかよりずっと安く寝泊まりできる。
シャワー室だって完備してるから、必要最低限の身だしなみも整えられるし……。
でも実際は一度も利用したことがないから、やっぱり色々と不安。
こうやってお店の前をウロウロ、完全に不審者状態かつ営業妨害だ。
「……結麻ちゃん?」
ポン、と肩を叩かれ、思わず私は大きく飛び跳ねた。
「あーごめん、驚かせちゃった? ……こんなところで、どうしたの?」
私の肩を叩いたのは、楓さんだった。
ふわっと優しい笑顔が彼のトレードマークだ。