嘘は溺愛のはじまり
「え……? あの、でも……」
「どこからそんな誤解が生じたのか分からないけど、俺には結麻さんしかいないから」
「……え、え?」
えっ、待って、じゃあ、あの花屋の女性は……???
「なんか……ふたりでちゃんと話し合った方が良いんじゃない?」
「そうみたいだな……」
楓さんの言葉に、伊吹さんは苦笑しながら、私の頬を優しく撫でた。
楓さんは「じゃあ僕、帰るね。伊吹、戸締まりしといて」と伊吹さんに鍵を託して、さっさと帰ってしまった。
え。戸締まりって、伊吹さんが、この店の、戸締まり……?
分からないことが多すぎて、私は目が回りそうだった。
カウンター前の席から、手を引かれてソファ席へと移る。
伊吹さんの大きな手が、私の手をキュッと包み込んだまま、話が始まった。
「……結麻さん。いま思ってること、全部話して」
「え、っと……」
「俺が、婚約してるって……?」
「あ、の、」
「どうしてそう思ったの?」
伊吹さんの口調は、いつも優しい。
今だって、私を責めるような話し方ではない。
「あの……、ウエディングドレスを一緒に選んでいるところを……見てしまった、ので……」
「ウエディングドレス……? んー、ああ、そう言うことか……」
伊吹さんは一瞬天を仰いだ後、小さなため息を漏らした。