嘘は溺愛のはじまり
そして、やっと私は思い出した。
――ああ、私が、“誘って”しまったんだった。
思い出すのが遅すぎる自分を罵りたくなる。
知らず知らずの間に、“私が伊吹さんをそそのかした”、からだろう……。
気付いてしまえば、簡単なことだ。
それで全てが説明できる。
伊吹さんが一緒に住もうと言ってくれたことも、恋人役になって欲しいと言ったことも、一緒に眠ることになったことも……。
私が小さく首を横に振ると、伊吹さんは少し首を傾げた。
そんな仕草すら素敵で、どうしようもなく心が揺さぶられる。
「結麻さん……?」
伊吹さんの問いかけに、私は再び首を横に振った。
「……伊吹さん、私……」
本当は、認めたくない、自分がそんな汚らわしい人間だなんて。
だけど認めざるを得ない、二度も同じ事を繰り返して、そして、まただなんて……。
「……私は、良くない人間だから……」
「良くない……? なにが?」
「私……きっと……、きっと、無意識のうちに……」
自らの汚点を、好意を寄せている人に告げるのはあまりにもつらくて、声が震える。
伊吹さんは何も言わず、心配そうな瞳で私の言葉を聞いていた。
「無意識のうちに、男の人を、誘って……」
「結麻さん」
「あ……、私、わた、し……、」
「結麻さんっ!」
伊吹さんにギュッと強く、息苦しいほどに強く抱き締められ、私は言葉を続けることが出来なくなった。