嘘は溺愛のはじまり
「結麻さん、違うよ、結麻さんはそんなことは、していない」
「……だって、」
「結麻さんはそんなことする人じゃない。俺が言うんだから、間違いないから」
「伊吹さん……、あの、わたし、前にも……」
強く抱き締めていた腕が少し緩み、伊吹さんが私の顔を覗き込んだ。
顔を上げると、伊吹さんの綺麗な黒い瞳にいまにも泣き出しそうな私の顔が映り込んでいた。
「……前にも、同じようなことが、あって……」
ゆっくりと話し出す私の言葉を、伊吹さんはじっと黙って聞いていた。
母の不倫相手に襲われたこと。
その人に投げかけられた言葉。
父と母の離婚。
高校生活。
今日までのこと、全てを――。
「……だから私は、多分、知らず知らずのうちに、男の人を誘っていて、」
「結麻さん」
それまで何も言わずに耳を傾けてくれていた伊吹さんが、私の言葉を遮るように私の名を呼んだ。
伊吹さんに呟かれるだけで、私の名前は、なんだか特別なもののように聞こえる。
伊吹さんが、とても優しく、丁寧に口ずさむから……。