嘘は溺愛のはじまり
「結麻さんは何も悪くない。絶対に」
「でも、」
「さっきも言ったよね? 俺が言うんだから、絶対だ。信じて欲しい」
「伊吹さん、でも、」
「じゃあ俺のことも、そそのかしたの?」
「そんなこと……っ」
「してないでしょ? まあ、俺は、結麻さんにならそそのかされたいけど」
「い、伊吹さんっ」
「あはは。冗談。……半分だけね」
笑いながら私の頬を撫でて、「でも、本当に半分は本気だから」と言って、私の手をキュッと握った。
「だって、そう言うことでしょ?」
「そう言う、こと……?」
「そう。男はみんな思うよ、好きな女性になら誘われたいって。そうなれば良いな、って」
「え……」
「でも、嫌がる女性に無理矢理触ったり、ましてや襲うなんてことはダメだよね」
それはきっと、谷川部長のことを指しているのだと思う。
私を見つめる伊吹さんの瞳が、心配そうな色に変わる。
「もっと早く気付いてあげれば良かった」
「……そんなこと、」
「人事部の奥瀬から聞いてはいたんだ」
「……え?」
前に、総務部の片瀬さんに仕事を教えてもらおうとした時の打ち合わせ室での件を、奥瀬くんは伊吹さんに直接報告していたらしい。