嘘は溺愛のはじまり

警察に被害届を出すとなったら、具体的にどんなことをするのかよく分からないけど、きっといろいろ事情を聞かれたりするんだろう。

会社にも迷惑がかかるかも知れないし、それに……、と考えていたところで伊吹さんが私の思考を遮るように口を開いた。


「会社のことは考えなくて良いからね。結麻さんは自分自身の気持ちだけ、考えてくれればいい。会社のことを考えるのは俺たち役員の仕事だから」


そんな風に優しく声をかけてくれて……。

谷川部長のことは、いま伊吹さんが言ってくれたように、きっときちんと会社としての処分をしてくれるだろう。


「会社がちゃんと対応してくれるなら、私はそれで、十分です」

「……そう、分かった」


伊吹さんはひとつ頷いて、繋いだ手をそのままに、私をそっと抱き寄せる。

伊吹さんの腕の中はとてもしあわせで、思わず泣きそうになって、小さく息を吐いた。


「ねえ、結麻さん……」

「はい」

「……キス、していい?」

「……え?」

「あんなやつが結麻さんの唇を奪ったなんて、許せなくて」

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