嘘は溺愛のはじまり
あの時、先に書庫に駆けつけて谷川部長を投げ飛ばしてくれたのは奥瀬くんだった。
きっと奥瀬くんには、私が何をされていたか、見えていただろう。
だけど、まさか伊吹さんにまで見られていたなんて……。
「……結麻さんが危険な目に遭ってるかも知れないって奥瀬に聞いた時、本当に心臓が止まるかと思った……」
「伊吹さん……」
「会社としての処分はもちろんちゃんと話し合って決めるけど……俺個人としては、出来ればぶっ殺したい」
「……あ、の、えっと、」
普段はとても穏やかな彼からそんな物騒な言葉が出てくるだなんて思いもしなくて、私は胸に埋めていた顔を上げて、伊吹さんを仰ぎ見る。
伊吹さんは眉根を寄せて、その目はとても静かに、怒りをたぎらせていた。
だけどそれはほんの一瞬のことで、私と瞳を合わせると、すぐにいつもの優しい瞳の色に変わる。
そして、伊吹さんの長くて綺麗な指で、私の唇をそっと撫でた。
「ごめんね、本当はもうちょっと待つつもりだったんだけど……」
そう言って、伊吹さんは今度は私の頬を優しく撫でる。
「やっぱり許せなくて、待てそうにない……。キス、したい」
ダメ? と尋ねるように、少しだけ首を傾げて尋ねる伊吹さんは、とても美しくて……。
あぁ……。
ダメなわけがない。
それよりもむしろ、私なんかとでいいのかな、って思ってしまうぐらいだ。