嘘は溺愛のはじまり

「伊吹くんは結構最初から、結麻さんのこと溺愛してたと思うんだけど」

「え……?」

「気づかなかった?」

「えっと、……は、い」

「あはは、そうですか。伊吹くんはもう少し努力が必要だったかな」

「和樹さん」

「はいはい、伊吹くん怖い顔しないで下さい。僕はもう退散します」



それにしても……。

楓さんは伊吹さんの弟さんだったし、マスターは伊吹さんの叔父さんで会社の取締役だったし、伊吹さんの婚約者だと私が思い込んでいた女性はマスターの娘さんで伊吹さんの従妹だったし……。

どこか雰囲気が似ていると感じたのは、彼らが血縁関係にあるからだ。

分かってみれば全てがしっくりくるし、本来ならもっと簡単に気づくはずだったと思う。

自分の洞察力や想像力の無さに、もう笑うしかない。


伊吹さんも、マスター(あえてこう呼ばせていただく)も、楓さんも、私が男性が苦手なのだと最初から気づいていたのだと言う。

私が怖がらないように、嫌だと思わないように、とても気を付けてくれていたらしい。

そうやって、あまり踏み込みすぎないようにしてくれていたらしいのだけど、私の失業とアパートの取り壊しが重なったことで心配になり、手をさしのべてくれたのだ。

あまりにも危なっかしい私を見ていられなかった、と言うことなのかも知れない。


すべての小さな謎は、こうしてすっかりと解き明かされたのだった――。

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