嘘は溺愛のはじまり

夜ご飯を食べたあと自宅マンション近くまで戻ってきた。

そろそろ帰るのかな、と思ったら、「もうひとつだけ寄りたいところがあるから」と言われ、手を引かれて、そのままブラブラと歩く。

すっかり見慣れて歩き慣れたその道のりに、目的地がどこなのか気づいてしまった。

隣を歩く伊吹さんを仰ぎ見ると、優しい瞳で私を見つめ返してくれる。


――カフェ『infinity』。


いつもより控えめな光を灯したそこは、扉に『本日貸し切り』と張り紙が貼られている。

伊吹さんは迷うことなくその扉に手をかけた。


「え。良いんですか?」


私の問いかけに「俺が貸し切ったからね」と悪戯っぽく笑って。

そんな笑顔にさえ、私はドキリと胸を高鳴らせる。


店内に一歩足を踏み入れると、そこは、いつもとは別世界になっていた……。


あちこちに綺麗な花のアレンジメントが飾られている。

間接照明はぐっと照度を落としてあり、その代わりにいくつものキャンドルが灯され、優しくゆらゆらとした光をきらめかせていて、飾られた花をより幻想的に照らし出していた。


「わぁ、素敵……」


思わず口をついて出て来た言葉に、伊吹さんも頷く。

飾られているフラワーアレンジメントは全て、従妹である理奈さんが『勘違いさせたお詫びに』と、飾り付けてくれたものだという。

とてもセンスが良くて、素敵で、しあわせな気分になる。

私が勝手に勘違いしていただけなのに……と、逆に申し訳なくなってしまった。

今度きちんとお礼を言わなければ。

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