嘘は溺愛のはじまり
『伊吹くん、20代女性の出来るような仕事の枠、余ってない?』
和樹さんの電話は、いつも突拍子がない気がする。
彼女との出会いからほぼ一年近く経ったある日、めずらしく和樹さんから電話がかかってきたかと思えば、開口一番、求職の話を振られて……。
「……いきなり何ですか?」
『いや、失業した知人がいてね。ついでに住むところも無くなってしまうらしくて』
「……仕事は和樹さんのお店で面倒見ればいいんじゃないんですか?」
呆れつつそう返すと、和樹さんは『へえ? 良いんだ?』と、なんだか意味深な言葉を返してくる。
「……どう言う意味ですか?」
『結麻さんの働いていた印刷所、会社をたたむことになったらしいよ? ついでに住んでたアパートは取り壊しが決まったそうです』
「は!? どうしてそれを先に言ってくれないんですか!?」
『ははは。焦ってる伊吹くんの声が聞きたかったので』