嘘は溺愛のはじまり
「いつも朝食は召し上がらないと言うことだったので量は少し控えめにしてありますけど……量はこれぐらいで大丈夫ですか?」
「ちょうど良さそうです。気遣ってくれてありがとう」
「いえ、とんでもないです」
「じゃあ、若月さんのお手間入り、いただきます」
優しい微笑みが私に向けられ、思わず赤面しそうになった。
朝から篠宮さんの麗しい微笑みは、とても危険……。
今日の初出勤だけは篠宮さんと一緒に行くことになっていて、そのことを考えると私はますます緊張してきてしまう。
それがあまりにも表情や態度に出ていたのか、篠宮さんは私に「初出社、緊張してますか?」と尋ねた。
「……はい、とても」
「大丈夫、リラックスして。こんなに美味しい朝食を作れる若月さんなら、きっと仕事もちゃんとこなせますよ」
「……はい」
はいと答えたものの、こんな料理のうちにも入りそうにないものが作れたところできちんと仕事をこなすことが出来るとはとても思えなくて、やっぱりどうやったって緊張は解れそうにもなかった。
それに、緊張している理由は仕事だけではない。
篠宮さんと朝食を一緒に摂ると言うシチュエーションも、やっぱり緊張する要素しかなくて……。
こんなに味の感じられない朝食を食べたのは初めてだ。
篠宮さんは朝食を食べる仕草も優雅で、私はくらりと眩暈がした――。