嘘は溺愛のはじまり


「勤務二日目は、どうでしたか?」


少し遅めの夕飯を篠宮さんと一緒に食べているところだ。

聞かれて一番に思い出したのは、人事部での奥瀬くんとのやり取りだった。

いや、でも……奥瀬くんは事を荒立てるような感じじゃなかったし、それならそれで、このままそっとしておいた方がいいのかも……。


「……若月さん?」

「え、あ、はい、えっと、今日も、緊張しました」

「……それだけ?」

「……え?」

「何か言いたそうだったから」

「あ、いえ……、たいしたことではないので……」

「でも、何か言いたいことがある。でしょ?」

「……」


じっと自分の目の前にあるおかずを見つめるように視線を下げていた私は、正面に座る篠宮さんの方へと少しずつ視線を上げる。

篠宮さんは手に持っていたお茶碗とお箸を置いて、真っ直ぐに私を見つめていた。


心臓が、ドキリと音を立てる。

篠宮さんの深い瞳の色に吸い込まれてしまいそうな気がして、思わず息を飲んだ。

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