嘘は溺愛のはじまり
「何か、困ってることでもある?」
「えっと……」
「俺には言いにくいこと?」
「そうでは、ないんですけど……」
「仕事のこと?」
「いえ、あの……」
「じゃあ、誰かに何か言われた?」
とても優しい口調で尋ねられ、ああ、心配してくれているんだなって思うと、やっぱり話しておいた方が良いのでは、という気になってくる。
「えっと……」
「うん」
「今日、書類を人事部に持って行ったんですけど……」
「うん」
「奥瀬、さんに、『住所が専務と同じだ』って言われて……」
「……そう。……それで? 彼は、何て?」
「……いえ、それだけ、なんですけど……」
本当はそれだけじゃないけど。
視線を俯けて、私は再び目の前のおかずを凝視した。
「ねえ、若月さん」
「はい……?」
「全部、話して下さい」
恐る恐る視線を上げると、真剣な表情の篠宮さんと視線が合う。
何もかもを見透かしていそうな彼の瞳に抗うことなんて、私には到底不可能だろう。