嘘は溺愛のはじまり
「若月さん、ごめん、俺の母親が来ます」
「あ、はい、分かりました。お茶のご用意をします。種類は何が良いでしょう?」
「いえ、そうではなくて。実はひとつお願いが……」
「はい、何でしょう?」
「俺の恋人になって欲しいんです」
「……え、ええっ!?」
篠宮さんの思ってもみない“お願い”に、きっと私はとっても顔を赤くしてしまっているに違いない。
そんな私の表情を見た伊吹さんは、困ったように眉尻を下げた。
「母は、俺が恋人と一緒に住んでいると思っています。日頃から早く結婚しろと言われてるんですが、あまりにも何度も言われるもので、思わず嘘を吐いてしまって。まさか確かめに来るなんて思ってもいなかったので……」
「恋人……、確かめに……」
「母の前では恋人役をしてくれませんか?」
「私が、恋人役、を……?」
申し訳なさそうに眉尻を下げる篠宮さんを見てしまえば何かを言えるはずもなく、むしろ私なんかが恋人役なんて、逆に申し訳ない気持ちになってしまう。