嘘は溺愛のはじまり

――なぜ仕事も住む場所も一度に無くすことになったかと言うと……。


私は大学在学中からアルバイトをしていた小さな印刷会社に卒業後もそのまま就職させてもらって、電話対応からお客様との打ち合わせ、印刷物の梱包や発送、場合によっては納品……と、日々忙しく働かせてもらっていた。

ところが、このところの不景気と、他の印刷所との競争などなどが重なって、年老いた社長は倒産をする前に会社をたたむ決断をしたのだ。


確かに突然倒産してしまえば紙やインクを卸してくれている会社に迷惑がかかるし、仕事を依頼してくれているお客様にだって迷惑がかかる。

廃業であれば、従業員も次の職探しまで少し猶予が貰える。


お世話になった会社が無くなってしまうのは本当に寂しいけれど、もう決まったことだ。

次の仕事を探そうと、私はなんとか気持ちを切り替えた。


< 5 / 248 >

この作品をシェア

pagetop